先日、とある(いろんな意味での)ミュージック・レジェンドと同席させていただいた。
とんでもなく長きに渡るそのタイムラインを自在に引き出し、興味深い話を多数を披露していただいた。
その内容は勿論、他人に向ける目線が実にプレーンな方だと瞬時に理解でき、正に至福の時間だった。
さてこのレジェンド、筆者が初めて知ったのはS.S.W.としてで、意外な媒体からの登場だった。
未だ放映継続中の超長寿番組「みんなのうた」(NHK)1972年6月の歌として、今回セレクトした「待ちわびのブルース」がブラウン管越しに聴こえてきた時にその名を初めて感知した。
小学6年生には実に不思議な楽曲だった。強いて云うなら、2年前に聞いていた、「どうにかなるさ/かまやつひろし」に僅かな類似性を感じた。
それもそのはず、当作は同年リリースのアルバム「ハーヴェスト/ニール・ヤング」にインスパイアされた、早すぎたナッシュビル録音で、ケニー・バトレー(Dr.)の参加は言わずもがな、あの伝説のエリアコード615からも主要メンバーが参加すると云う、当時の日本の音楽状況を軽く超越したとんでもないハイクオリティー作品だったのである。
主人公、麻田浩のアーロン・ネビルよりいち早くアプローチした(?笑)カントリー・ヨーデル唱法も微笑ましく、その後の憂歌団などのゆったりとした日本語アコースティック・ブルースの先駆けとも云える名作。
皆が何気に使う“早すぎる”と云う形容詞はこのことをいうのだ(se)
投稿者: adanendo
黄昏ミュージックvol.77 ロング・ドラム・ソング/ザ・サン・オブ・P.M.
特に観光、グルメなどでスペシャルな自身のプライオリティーがある訳でもないのだが、3度目の渡泰(タイ)が急遽決まった。
そんな低い熱量の冒頭筆圧だが、こと音楽に関してはクルアンビン効果もあってか?近年、俗に云う“辺境レア・グルーブ”の一環として古い音源に関してはかなりかの国の音源を探っていた。
中でも一番使用頻度が高いのが今回の主人公、プレーン・タイ・サーコンの最高峰ザ・サン・オブ・P.M.。
私に執っての辺境レア・グルーブの肝は、勿論、そのいなたいリズム隊が占める要素が非常に大きいのだが、スパイスとしてのハイル・メルギア風オルガンサウンド、そして味の方向性を一手に決めるヨナ音階を内包した寺内タケシ風エレキ(ギター)サウンドも合体すれば申し分ない。
今、何気に書き散らかした要素全てが完璧に揃っているのがこの「ロング・ドラム・ソング」なのである(まるで、ドイツのバンドCANがガムランをやってる様なリズムセクション 笑)
興味のある御仁は是非一聴を。
PS:同様な理由でハマっているのが、上記の和製互換、「遺憾に存じます/ハナ肇とクレイジーキャッツ(実質は植木等・寺内タケシとブルージーンズ)」こちらも一聴を。(se)
黄昏ミュージックvol.76 ザ・ホームレス・ワンダラー/エマホイ・ツェゲ・マリアム・ゴブルー
本年は本当に好きなアーティストたちが多数黄泉に赴いてしまい悲しい限りである。
今回の主人公であるエチオピアのレジェンド女性ピアニスト、エマホイ・ツェゲ・マリアム・ゴブルーも3月26日にこの世を去った。
西洋音楽の権化であるピアノは、異種交配すると重層で複雑な色彩を生み出す。
ラテンの血が入ったキューバ、アフロを経由しジャズになったアメリカなど各地で魅力的な音が沢山生まれたが、このエマホイ・ツェゲ・マリアム・ゴブルーもまた然りだ。
一言で言えば、エリック・サティーがドクター・ジョンの物真似をしたような、ぎこちなく転がるピアノが不思議な開放感を我々に与えてくれる。
修道女という横顔も持っていたように、いい意味での宗教性もまたもう一つの彼女の魅力でもあった。
リアル・オンリーワンのピアニストよ安らかに。(se)
黄昏ミュージックvol.75 星影のバラード/欧陽菲菲
先日、1シーズンに一回、「奥渋/希望」にDJ参戦して頂いているコモエスタ八重樫氏にお教えいただいた音源を今回は紹介したいと思う。
氏がこの曲をかけた時、俗に云う“歌謡曲”と認識したのだが、曲が進むにつれて不思議な違和感が襲ってきた。
「これ、洋楽では?」と思案しだした瞬間、「これ、元唄レオ・セイヤー」と氏。
よく聴くとレオの80年のヒットチューン「More Than I Can Say」ではないか。
和欧文織り交ぜた川野珠音の訳詞(意訳?)のなせる技か、寸分の狂いもない“歌謡曲”として出来上がっているのだ。
ド頭の欧文が印象深いビックカンバック曲「ラヴ・イズ・オーヴァー」が80年リリースなので、その手口には欧陽菲菲自身が手練れてきた時期であることが、楽曲の完成度を更に高めているのかもしれない。
“洋楽により近く”を指標に推進してきたJ POPがファッション用語で云うところの“ドレスダウン”し始めた先鞭と云ってもいい、隠れた突然変異的名曲なのだ(se)
黄昏ミュージックvol.74 ターン・バック・ザ・ハンズ・オブ・タイム/タイロン・デイヴィス
いろんなジャンルの楽曲をかけるのが好きなのだが、一番身体に染み込んでいるのがノーザンソウルのような気がする。
このノーザンソウルという名称も実はややこしく、例のイギリス映画「ノーザンソウル」の舞台バーンズワース等イギリス北部の若者達が愛したニッチなアメリカのソウルミュージックを起源とする、ということにここではして筆を進めたい。
分かりにくい方は、ジャッキー・ウィルソン及びモータウンサウンドあたりをイメージしてもらえればいいだろう。
さて、その辺りのサウンドの隠し味としては、ダンスビートを強調するタンバリン、そして、ヤングアメリカンのスウィートな明るい未来像を呼び込むヴィブラフォンの響きが印象深い。
そしてこのタイロン・デイヴィスの代表曲「ターン・バック・ザ・ハンズ・オブ・タイム」ほどソウルミュージックとしてヴィブラフォンを上手く使った曲は無いほどに、そのシンプルでメロウなバッキングが脳裏に残る素晴らしきノーザンソウルなのである(se)
a gift of Happiness ~Tomoko’s Mandala collection~ 3月16日(木)〜4月25日(火)
Pema gallery・山口智子がネパール、ブータン、インドで収集した稀有な曼荼羅を奥渋「バー希望」で展示
期間/3月16日(木)〜4月25日(火)
月火木金/11:00〜23:00 土日/15:30〜23:30※水曜休み
※4月22日(土)レセプションパーティーを行います。
ライブスタート/18:00(ミュージックチャージ無料、飲食代のみかかります)
インドの弦楽器サロードと打楽器タブラによる即興演奏
出演:
北田信人(サロード、解説)
森上唯(タブラ)
【出演者プロフィール】
北田信人弦楽器シタール・サロード、大阪大学大学院教授)
1989年よりシタール奏者アミット・ロイ氏にインド古典音楽を師事
森上唯(打楽器タブラ)
Ustad Sabir Khan氏にインド・カルカッタにて師事
黄昏ミュージックvol.73 EVERYDAY LIFE/高橋幸宏
本年に入り多大な影響を受けたり、縁があったアーティストたちが続々と天に召された。
中でも筆者がトークショーの制作を担当させて頂いた高橋幸宏氏逝去の報はショックであった。
70年代、サディスティック・ミカバンドで早くも世界的な注目を集めたが、多くの人々の認識は、あのYMOでの名声が主であろう。
幸宏氏はドラマー以外に、SSW、シンガーの側面も持っていたため、名作と呼べるソロアルバムも実は多くあり、中でも今回紹介する「EVERYDAY LIFE」を含むアルバム「A Day in The Next Life」は、ワールドミュージック全盛期の名作で、幸宏流とも呼べるそのフレイバーがうまく溶け込みオンリーワンな世界を創り上げている。
本トラックはビートルズの大作「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を彷彿させる日常に対比するアンビバレントな悲劇を作詞家森雪之丞が饒舌に描き、それを幸宏氏のあの独特の声紋がなぞることでくっきりとしたリアリティーを生む快作。Dr.Kyon(ex.ボ・ガンボス)が奏でる力強いピアノのしらべが更なる楽曲の奥行きを生む。
黙祷。(se)
黄昏ミュージックvol.72 燃えよ荒鷲/ミノタウロス
新年の1回目はどうしても和テイストの楽曲になりがちだが、ご多分に漏れず今回も諸にそんなタイトルを選んだ。
元旦のグレート・ムタVSシンスケ・ナカムラ戦は久々に素晴らしい日本人対決のプロレスだった。
プロレスの醍醐味の半分は入場シーンと云われて久しいが、今回の2人もそれを体現した極上の見参だった。
ナカムラのあのバイオリンをフィーチャーした登場曲の前の前奏としての和太鼓ソロは元旦にぴったりのアレンジ。ムタに於いては存在自体が“東洋”であるが故にこれもまた新春への誘いであった。
でだ、過去、正月興行に於いて“和”を一番感じさせる登場曲があった。坂口征二のテーマ「 燃えよ荒鷲」。
戦へ挑む武士が如く勇壮な序盤から、中盤以降インタープレイに展開し、当時の先端フュージョンとへと流れ込む、正にオンリーワンなプロレステーマ曲なのだ。
さて、この謎のバンド、ミノタウロスだが、日本のシンセサイザー・ミュージックの草分け淡海悟郎主宰のバンドであり、演奏力は非常に高度なモノを備えている。(他プロレステーマでは阿修羅原のテーマも彼ら)
行き先不明な新年が開けた。まずはこの曲のように前を向いて歩くことにしよう(se)
黄昏ミュージックvol.71 二十才の頃/かまやつひろし
今回のカタールW杯は11月開催と変則的で、シーズンから直接本戦へ向かう流れのためどの国も今や野戦病院状態だ。故に選手層の厚みが優越をつけそうな気配である。
さて優勝予想だが、音楽での互換性を鑑み、南米はブラジル、欧州はフランスと予想してみたい。
その心は“ボサノヴァ”にある。
ボサノヴァは1950年代後半にアントニオ・カルロス・ジョビンにより世に広まり、作詞家としてヴィニシウス・ジ・モラエスが傍にいた。その人物が後に、伯仏のボサノヴァの架け橋となる。
作家として国際的な名声を得る前から外交官だった彼は、フランスへの赴任経験があり、その際にフランシス・レイ、ピエール・バルーなどにボサノヴァを伝授している。
ポルトガル語とフランス語、この2つの言語はラテン語系のロマンス諸語であるため、フランス語とボサノヴァとの愛称は抜群で、彼の国からも多くの名作が生まれた。
さて日本だ。
戦後日本では英米のポピュラー音楽の影響は絶大であるが、長くフランス文化への憧れもあり、全盛期のレストラン「キャンティ」などに集う面々はフレンチ経由のボサノヴァにも当たり前に精通していた。その際たるものが今回レコメンドするムッシュかまやつ作曲、安井かずみ&なかにし礼共同作詞の本作である。この時期としては高度におしゃれなコード進行で、安井、なかにしの二人も歌唱に参加する遊び心も微笑ましい。因みにカヴァー曲として、ムッシュの盟友、井上順夫妻Ver.や今井美樹Ver.もあり、どちらも本家へのリスペクトを強く感じる素敵なVer.だ。三作とも要チェック!(se)
黄昏ミュージックvol.70 ザ・ウェイ/ジュライ
60年代後半、東洋思想が世界に伝播し(きっかけはギーンズバーグらのビート詩人、その影響下のアメリカ西海岸の文学者たち)一時、ビートルズを筆頭に実際にインドへ旅立つアーティストが増えだす。
そんな潮流の中、シタール、タブラを使用し、インド音階を用いる“ラーガロック”なる一群がサイケデリック・アートと相まって時代の趨勢となった。
結論から述べると、ある種の時代の徒花としてその潮流は終焉を迎えるのだが、中には、音響として未だ新鮮であり、その後のオルタナティブ・ロックの呼水となる秀作も数多く存在する。
今回紹介するUKのサイケデリック・ロックバンド、ジュライの「ザ・ウェイ」はその最たるもので、PILを彷彿させる、ピッチ、タイムを無視した歪んだ声紋はまるでジョニー・ライドン。それに相まうギターは無機質なPILとは全く正反対なブルース臭漂うものであり、この取り合わせは“発明”と云っても大袈裟ではない、強烈なチューンだ。一聴あれ!(se)