黄昏ミュージックvol.87  ハロガロ/ノイ!

  2月末に集中的に体調を乱し、結果、予期せぬ見舞金を保険会社から初めて入金してもらったのだが、いつものようにこんな時に限って、3台のパソコンに不具合が起き、メイン機は最新に買い替え、更に、2台のノート型を修理に出すこととなった。
  コロナ以降久々となる、新横浜にある旧知のPC修理店にノートPCを持ち込み、当日修復対応してもらい、一旦、このトラブルは解決となったものの、見舞金の全てがこれで無くなってしまった。
 世の中、額に汗をかかずに稼いだ金は残らないものだ(手術中いくらかの汗はかいたはずなのだが…笑)
 さて、昨今のPC使いで驚愕しつつ新たに使用しているものにAIがある。
 筆者が日常使いで“AI”なるタームを使い出したきっかけはTVアニメ「攻殻機動隊」とお恥ずかしい限りの歴史なのだが、これと類似する驚愕の音楽体験、「電子音楽で踊る」を体感したのが、クラウトロックの重鎮、クラフトワークの最初期の重要人物、クラウス・ディンガー(ドラム)、ミヒャエル・ローター(ギター)が結成したノイ!の1972年のファーストアルバム「ノイ!」1stトラックに配した、今回フォーカスする「ハロガロ」。
 その後の彼らの代名詞となる、クラウス・ディンガーが叩き出すハンマービート(モータリック)が、このファーストトラックで既に完全に出来上がっていたのだから、身体は当然自然に揺れ出した。
 そして、この衝動は筆者の幻影ではなく、ミュンヘン・サウンドの大きな波を経て、デトロイト・テクノと云う骨太なダンスミュージック・シーンとして完全に定着するのである。(se)

黄昏ミュージックvol.86  春が来たから/RCサクセション

 前回の冬季限定に続き、今回は春季限定の選曲使用曲とした。
 今では本作収録のアルバム「初期のRC・サクセション」は和製アシッドフォークの名作とカテゴライズされるタイトルであるが、意外にも全曲アレンジを担当した穂口雄右(ex.アウト・キャスト)のワークはRCの3人(当時)には全く不評だったとのことだ。
 この当時のレコーディング現場は、例えジャンルがロックやフォークであろうと、アーティストの嗜好とプロダクトに大きな乖離がある場合が非常に多く、実際のところセールスのほとんどを占めていた歌謡曲の制作現場の流れをそのまま踏襲する時代だったのだろう。
 フォークからエレキへ後に移行する彼らだが、この時期のRCは、ディランのエレキ化のそれより、ティラノザウルス・レックスからT・REXへの変容、人材及び与算不足による不安定感からくるヨレヨレ度が逆にアシッド風味に拍車をかけていたように思う。
 ただ、早熟なデビューであった忌野清志郎のシンガー、コンポーザーとしての質は、この時点ですでに出来上がっていて、それ故のエヴァーグリーンであることも事実なのだ(se)

黄昏ミュージックvol.85  冬の地下道/佐井好子

 冬本番の2月にしかかけない楽曲がある。
 その殆どが和物であり、当然、「雪」や「冬」、「氷」などの下手な季語が使われている作品群。
 今回セクションした「冬の地下道」も同様のもので、サウンドプロダクトは、この連載の82回で扱った「青い魚/金延幸子」同質のティム・ドラモンド(ベース)&ケニー・バトリー(ドラムス)のセクションを咀嚼した良作だ。
 気になる美しいハイトーンボイスを操るのは佐井好子。このアルバムの希有な幻想文学的リリックは、腎臓病による長期入院中の読書で身に付けたものだという。
 当作の素晴らしさはもとより、可能ならば、春名勇(ディレクター)、伊豫部富治(エンジニア)、大野雄二(プロデューサー、アレンジャー)制作の1stアルバム「萬花鏡」(1975年作品)を通しで聴き込んでいただきたい。
 この作品は正に当時の問題作で、幻想文学とは距離がある天才大野雄二が、和楽器まで持ち込んだ驚異の音楽性で、その溝を埋め合わせてゆく様が非常にスリリングであり、世界基準のアシッドフォークのモノリスとなっている理由もそこにある。
 更に、当作「冬の地下道」の冒頭の時代を先駆けたダブを彷彿させる深い深度の音響もまた聞きどころだ。(se)

黄昏ミュージックvol.84  ラブアタック!/キダ・タロー

 全国区とは言わないまでも、西日本全域、老若男女からリスペクトを込めて“アホ”と称された稀代の芸人、坂田利夫が残念ながら年末に逝った。
 関西芸人の性で、彼は自身名義で楽曲「アホの坂田」(作詞:竹本浩三、作編曲:キダ・タロー)を吹込んでいて、後発「ヤマザキ一番!/当時:山崎邦正」の先鞭の様に、「アホ、アホ、アホの坂田」をひたすら連呼するパートと、コメディーNo.1での相方、前田五郎との漫才的掛け合いで構成される特異な様式は、CM、TVテーマ曲で聴く、短時間で脳裏に刷り込まれるキダ・マジックを、ここでも遺憾なく発揮している。
 そのTVテーマ曲で、珍しくキダ・マジックを放棄し、ジャズ系楽曲として“かっこいい”に大きく振ったのが、今回セレクトした「ラブアタック!」だ。
 推測だが、この楽曲が生まれた背景には、前年に始まった「霊感ヤマカン第六感」でのルパン第一シリーズで著名な、正に“かっこいい”ジャズ系楽曲を連発する、「山下毅雄へ対するアンサーソングなのではないか?」などと夢想すると、さらに味わい深く聴くことができる。
 蛇足にはなるが、「霊感ヤマカン第六感」の翌年に、モーグシンセサイザーのロングトーンを主旋律に使用した非常に印象的なTVテーマ曲がある。 「相性診断!あなたと私はピッタンコ」がそれなのだが。
  ここでの「音楽」表記が、どこでどう調べても「大塚善章→キダ・タロー」と連名になっており、読解するならば、「前後期で移行した」と読み取れるのだが、そのモーグシンセサイザーのロングトーンを主旋律した楽曲の作曲者をご存知の読者がいれば、是非お教え願いたい。(se)

黄昏ミュージックvol.83  別れの詩/日暮し

 和製AORブームの中、レア盤として名高い「縞馬に乗ったセクレタリー/菊地真美」が初のCDでの再発が決まったそうだ。
 この作品はサポートメンバーの豪華さと矢野顕子の複数の秀作が目を引くが、共同プロデューサーとして名を連ねる矢野誠の稀代のアレンジ力にまずは舌をまく。
 矢野アレンジは、なんといっても優雅なストリングスに魅了される訳だが、このフォークトリオ(初期と後期に四人構成時代あり)の、楽曲の持つカントリーマナーと少しかけ離れた良質なソフトロックを彷彿させる優美なストリングスが3声ハーモニーと相まって柔らかで繊細な編み物の肌触りの如き優婉な世界に誘ってくれる。
 メンバーで作者の武田清一(共作:野間義男)はRCサクセションの前身The Remainders of The Cloverの元メンバーで忌野清志郎の中学の2年先輩にあたる。現在は膨大なジャズのヴァイナルを配したカフェを国立で営んでいるそうである。(se)

2023/12/23(土)2023クリスマススペシャル イノウエオハナ・ライブ

OPEN:18:00
LIVE START:19:30

出演:イノウエオハナ
DJ:DJ Sohmei Endoh

ミュージックチャージ:無料(ご飲食代金のみかかります)

イノウエオハナ/プロフィール
Kathie Inoue/Profile
2008年 Keni Inoue”Guitar Oasis”の全国ツアーに参加。2009年 Kathie & Keni Inoueとして”Aloha Yokohama Festival”に出演。新ユニット”INOUE OHANA”のレコーディングをKeni Inoueと共にハワイ島のSea West Recording Studioでスタートさせる。ハワイ島コナにてKeni Inoueと現地のメンバーと共にライブを行い好評を得る。コナにてKeniと共に飛び入り参加して好評を得る。2010年 ”INOUE OHANA”の新作アイランドレゲエアルバム”Island Blend” をKeni Inoueと共に完成させ発表する。人気DJのGoerge CockleのFM番組”Island Music Serenade”で”INOUE OHANA”の”Island Blend”が全曲かかる。フラ&ハワイアンの大イベント”Aloha Yokohama Festival”に”INOUE OHANA”で出演。オアフ島のホノルルやハワイ島ヒロのラジオステーションに出演。ハワイ島のKAUにできた新しいラジオステーションで”INOUE OHANA”の”Island Blend”が連日オンエアーされる。作詞作曲、歌、ウクレレプレイヤーそして”INOUE OHANA”の中心メンバーとして精力的に音楽活動中。

Keni Inoue/Profile
2001年 沖縄在住でハワイで亡くなった海の幸のメンバー”どんと”の追悼盤 “Rainbow Island”のハワイ&沖縄録音にメンバーとして参加。2005年 妻であり同じ”海の幸”のメンバーであったKathieとユニット”Kathie& Keni Inoue”を結成し、アルバム”Voyage to Paradise”をVivid Soundより発表。7月、フジロックフェスティバルに出演する。2007年 自身ソロ名義2枚目である、ギターインストルメンタルアルバム “Guitar Oasis”を秋に発売する。インターFMのDJ、Vance Kの番組で”Guitar Oasis”がかかる。2008年 “Guitar Oasis”のプロモーションツアーを全国的に行う。2009年 “Aloha Yokohama Festival”に出演。新ユニット”INOUE OHANA”のレコーディングをスタートさせる。ハワイ島コナにて現地のメンバーと共に”INOUE OHANA”でのライブを行い好評を得る。コナにて”Earie Cruz”のライブにKathieと共に飛び入り参加する。個人活動として古くからの友人Mooneyと、ホーギーカーマイケルのトリビュート盤”Horgy’s Back”を制作し発表。2010年 “INOUE OHANA”の新作アイランドレゲエアルバム”Isand Blend”を完成、発表する。日本のメンバーと共に”INOUE OHANA”関東&東北ツアーを行う。人気DJのGoerge CockleのFM番組”Island Music Serenade”で”INOUE OHANA”の”Island Blend”が全曲かかる。フラ&ハワイアンの大イベント”Aloha Yokohama Festival”に”INOUE OHANA”で出演。個人の活動として、ブレバタの岩沢二弓とシンガーソングライター増田俊郎とのユニット”2Uがれ”(ふゆがれ)のライブを東京&湘南で行い好評を得る。“INOUE OHANA”の中心メンバーとして、又いろいろなミュージシャンとのコラボなど精力的に音楽活動中。

黄昏ミュージックvol.82  青い魚/金延幸子

 1972年の細野晴臣プロデュースによる名作「み空」はともより、ある世代は小沢健二を経由してその存在を再評価されたと云われる伝説のS.S.W.金延幸子。そんな彼女が、本年5月の『PERFECT DAYS』(監督:ヴィム・ヴェンダース)での役所広司、カンヌ国際映画祭最優秀男優賞受賞で又してもその評価がうなぎ登りとなり、今回、セレクトした挿入歌「青い魚」(c.w.『あなたから遠くへ』)が、まさかのヴァイナル発売が決定した。
 当楽曲は本人他、鈴木茂、細野晴臣、林立夫と後のティン・パン・アレーの中核をなす手練れがサポートしており、その時代の最新マナー、ティム・ドラモンド(ベース)&ケニー・バトリー(ドラムス)を租借するも金延幸子の繊細なボーカルを殺すことなく非常に奥ゆかしく演奏されている。
 ちなみに、最新ニュースによると、渡米後のアルバム「フォーク・イン・ザ・ロード」も鬼才久保田真琴の手による再録と聴き間違えるような作品としてのリリースも控えているそうで、来日公演も含め、しばらく何度目かの金延幸子ブームが続きそうだ。(se)

黄昏ミュージックvol.81  ラグ・チャイルド/アリソン・ラッセル

 ロビー・ロバートソンの死、ジョニー・ミッチェルの復活と大物カナダ系アーティストの悲喜交交な話題が示すように、かの国出身のアーティストは世界のポピュラーミュージックシーンに大きな功績を残したきたことに対し異存のある者は居ないだろう。
 特に ジャズシーンでは“女性シンガーの宝庫”との称号も与えられている。
 そのカナダからの昨今の大成功例が、前作がグラミー賞4部門にノミネートされた女性シンガーソングライター、アリソン・ラッセルではないだろうか?
 過去の楽曲も素晴らしい作品が数多あるが、せっかくだ、本年9月リリースの3rdアルバム「ザ・リターナー」から変則的なミッドテンポが非常に心地いい「ラグ・チャイルド」を今回はピックアップ。
 名曲「ビコ/ピーター・ガブリエル」を彷彿させる自然に沸き立つ大らかなアフロ感が思考に余裕をあたえ、秀逸な楽曲であるとともに、DJプレイ中には次の展開を思考するのに非常に最適な曲なのでもある。(se)
 

2023/11/4(土) 2023希望オータムースペシャル マブリ・ライブ

マブリ24周年記念&Sohmei Endoh作品展クローズド・パーティー
2023/11/4(土) 2023希望オータムースペシャル マブリ・ライブ

出演:マブリ
1st stage/16:00〜
2nd stage/19:00〜

DJ:DJピーナッツ a.k.a. 片岡一史、Sohmei Endoh

ミュージックチャージ:投げ銭(ご飲食代金のみかかります)


マブリ/プロフィール
奄美大島南部の島唄の伝説的唄者、朝崎郁恵のサポートとして出会ったタナカアツシ(ボーカル・三味線・ギター)と奈良大介(ボーカル・ジンベ・三味線)のユニット。“マブリ”とは奄美方言で魂の意。奄美島唄、八月踊り唄などの伝統的なスタイルとポピュラーアレンジの両方で歌い演奏する独自の音楽スタイルで知名度を上げる。関東、関西、奄美群島を中心に、奄美料理店、沖縄料理店でのライブ、奄美関連のイベント、郷友会の会合などでライブ活動を行い、奄美群島を題材にしたり、奄美方言で作詞した軽快なオリジナル曲、カヴァー曲、新民謡を演奏し、観客を巻き込んでの間近で歌って踊れるステージが魅力。

黄昏ミュージックvol.80  City Bird/滝沢洋一

 私事で恐縮だが、先日、自身の作品展の打ち上げを、こだま和文(exミュート・ビート)ターンテーブルセットでお馴染みのDJ Yabby氏をゲストDJにむかえ、のんびりと「奥渋/希望」にて開催したのだが、氏のセンス溢れる選曲は当然として、使用レコードのコンディションの良さには驚きが抑えらきれなかった。そんなプレイの終盤にかけたのが、昨今のシティーポップス文脈で見直されたS.S.W.、故滝沢洋一が、ビートたけしに楽曲提供した本作「 City Bird」。
 極東の知られざるダンスミュージックとして世界的に見直されたシティーポップスだが、当作は完全にバラードの範疇のBPMで、それとは一線を画すものだが、間奏のクインシー・ジョーンズの仕事でのトゥーツ・シールマンス(クロマチックハーモニカ)を思わせる静寂なる夜の澄んだ空気感は、正調なる都会のサウンドである。
 ハイトーンで作者ならではの呟くような滝沢Ver.、精一杯の歌唱でソウルミュージックとして昇華するたけしVer.。秋の夜長、その夜の気分でチョイスするのもまた楽しき一計(se)