黄昏ミュージックvol.107 シュー・フライ/ホセ・フェリシアーノ

 ある音楽スタイルを生み出したとも云っても大袈裟ではないレジェンド・ギタリスト、スティーヴ・クロッパーが84歳でこの世を去った。
 2021年のラストアルバム「ファイアー・イッツ・アップ」があまりに生命力溢れる作品だったので、まだまだ現役生活は続くものだと勝手に思いこんでいた。
 スタックス・レーベル黄金期でのファーストコールはもとより、エディ・フロイド「ノック・オン・ウッド」、ウィルソン・ピケット「イン・ザ・ミッドナイト・アワー」そして、日本でも非常に人気の高いエヴァーグリーン、オーティス・レディング「ドック・オブ・ベイ」とコンポーザーとしても非常に優秀であった。
 さらにプロデュース能力にも秀でており、ジェフ・ベック・グループ、タワー・オブ・パワー、ジョン・クーガー・メレンキャンプ、そして忌野清志郎など多くの名作を生み出した。
 今回はそのプロデュース作品でも異色なプエルトリコ出身の盲目のシンガー、ギタリスト、ホセ・フェリシアーノとの名作アルバムから、いかにもスティーヴ・クロッパーと云えるR&Bマナーの楽曲にフォーカスする。
 ホセ・フェリシアーノは60年代から既にアメリカでも注目された存在で、ナチュラルに醸し出すラテン性がアメリカでの彼の持ち味だったが、スティーヴ・クロッパーとのケミストリーにより、現在では、AOR、レア・グルーヴ蒐集家に人気のレア・ヴァイナルとなった。
 ブガルーがソウルとラテンの融合音楽と呼ばれ構造的にも分かりやすい音楽ジャンルだが、この二人の巨人コラボレーションはもっと複雑な調合と隠し味で、更に自然な異種配合となっている。正に名作。(se)

黄昏ミュージックvol.106 コール・ミー・ザ・ブリーズ/ベス・オートン

 以前、パーカッショニストが加入している4人編成時の京都のバンド、ドレクスキップのライブを見た時強く感じたことだが、北欧伝統音楽を独自解釈した彼らのアコースティックなインストゥルメンタル曲に、真逆とも思われれるトランシーな成分が多く含まれていることに驚かされた。
 欧米問わず収穫期に生演奏で踊る行為は多くの文化圏で見られるごく普通の事象で、リズムに反復フレーズが多用されれば陶酔状態にも当然なるだろう。
 さて、ベス・オートンの2012年の作品「コール・ミー・ザ・ブリーズ」だが、アコースティック楽器による反復リズムは勿論、歌詞も「私を〇〇と呼んで」とひたすら繰り返す歌は楽曲のポリフォニック性を更に増幅させ緩やかなトランスへと我々を導く。
 思えばそれも当然、ケミカル・ブラザーズの1stアルバムでのゲスト参加で注目を浴び、その後、重鎮バート・ヤンシュとも共演している飛び級のキャリアを眺めればこんな嬉しい効用がある作品を創作するのも当たり前なのだ。(se)

黄昏ミュージックvol.105 ヘブン・トゥ・ミー/フェリックス・エイムズ

 「Shoestring」がSpotifyで300万回オーバーの再生数を達成し注目を浴びるようになったモダン・ソウル・シンガーのフェリックス・エイムズ。
 モダン・ソウルなんてジャンルもあやふやで、過去UKでは同様の呼び名を60~70年代のレアなノーザンソウルの1カテゴリーとして仕様していた時期もある。
 その辺のゆるゆるな線引きなのでフューチャー・ソウルでも一向に構わないが、おおよその出自は70年代のニューソウルから派生したもので、それに加味されるのがリリックならラップ。更にサウンド・プロダクションはエレクトニカやら音響系とある程度の雛形は想像に難くないが、他と違い彼のトラックを頻繁に聴いてしまう最大の理由は、その特出したメロディーメーカーぶりだ。正に捨て曲なし。更に艶っぽい美声がそのメロディーを何倍にも増幅させる。
 出身地ミルウォーキーで音の骨格を形成し、ロサンゼルスで開花させたフェリックス・エイムズの本年リリースの3rdアルバムの2曲目「ヘブン・トゥ・ミー」そんな彼のゴスペル的側面を全面に押し出したソウルフル且つスペーシーな秀曲である。(se)

Sohmei Endoh Exhibition [極東画:TOKYO 204X_八龍(バーロン)特区〜猫のいる街〜]

204X年、多くの難民が流れ込んだ東京に彼らを管理監視するために、苦肉の策として突如現れた八龍(バーロン)特区の日常風景。
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期間:2025,11/4(Tue.)〜12,27(Sat.)

観覧時間:月〜土曜日 11:00〜23:00
     日曜日、祝日 14:00〜23:00
     無休(臨時休業がある場合があります。インスタグラムにて事前にご確認ください。)
観覧料/ワンオーダーが必要になります。

展示内容/最新シリーズ[極東画:TOKYO 204X_八龍(バーロン)特区〜猫のいる街〜]シリーズよりジークレー版画20点
※全作品初の展示となります。

展示全作品が「ギャラリー ラナイ」オンラインショップでもご購入可能です。
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[極東画:TOKYO 204X_八龍(バーロン)特区〜猫のいる街〜]シリーズ:ジークレー版画作品

[展示作品ポストカード10枚セット]

[作品展カタログ]

エンドウソウメイ:プロフィール
静岡県沼津市生まれ。1985年よりイラストレーターを職業とし、木版画を中心に、「ウォーマット横浜」(複数年担当)、「アースデイ東京」などのイベントポスター。ザ・ミーターズ、アート・ネヴィル、ジャコ・パストリアス、ジャニス・ジョップリン、直近では人気急上昇中のカナダの女性ジャズシンガー、ケイティ・ジョージのジャケットなどワールドワイドな媒体にビジュアル提供及びデザイン担当。国内では、音楽専門誌「ミュージックマガジン」、「バットニュース」など音楽と真摯に向き合うマガジンに多数寄稿。ジャケットワークとしては、スーパー・バター・ドック、GOMA & The Jungle Rhythm Section、s-ken+PE’Z(配信用アイコン)、ダージリン(Dr.Kyon&佐橋佳幸)、Jagatara2020などミュージック・ジャンキーの試金石的ドープな音楽性を誇るアーティストのビジュアル及びデザインを担当。90年代からは前述に並行し、ライター、インタビュアーも兼ねるようになり、全編インタビュー書籍に、「いつの日かダブトランペッターと呼ばれるようになった/こだま和文」(企画、装丁画も担当)がある。DJとしての活動も1979年開始とキャリア中一番長く、90年代はレジェンダリーな都内クラブでレジデントとして多数プレイ。現在も「奥渋/バー希望」限定でその活動も継続中。また、ブッツキング・ディレクターとして、多くの音楽ライブ、トークショーの企画制作者の横顔も持つ。

Sohmei Endoh Exhibition [極東画:Someday in the Rain.〜ある雨の日〜]

期間:2025,3/3(Mon.)〜5,31(Sat.)

観覧時間:月〜金 15:00〜23:00(L.O.22:00)
     土   14:00〜24:00(L.O.22:30)
     日曜休み
観覧料/ワンオーダーが必要になります。

展示内容/最新シリーズ[極東画:Someday in the Rain.〜ある雨の日〜]シリーズよりジークレー版画10点、 [TOKYO203X]シリーズよりジークレー版画19点
※全作品初の展示となります。

展示全作品が「ギャラリー ラナイ」オンラインショップでもご購入可能です。
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[極東画:Someday in the Rain.〜ある雨の日〜]シリーズ
[TOKYO203X]シリーズ
[展示作品ポストカード10枚セット]

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「雨の記憶」

 いねむりをしていた。
 遠い昔に放浪した南太平洋の夢を見た。
 私はパゴパゴのレインメイカーホテルに深夜辿り着いたばかりだ。サマセット・モームがここで書いた短編のように、古いコロニアルな建物の屋根に雨は降り続く。
 部屋の窓をあけると、真っ黒な南太平洋からのひどい湿気で、ゼンソク持ちの私の喉はひゅうとかすれた。私は絶望的な気分だったが、連れの女は「あら、雨だわ」とアーマ・トーマスが歌った「イッツ・レイン」のようにキラキラしていた。

河内一作(アダンファーム代表、バー希望オーナー)

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 なぜ故か?東京で雨に浴びると、急にその雨に含まれる“江戸”の記憶を感じる時がある。
 幼少より見ていた時代劇の影響なのか?私だけかも知れないが、雨にはそんな効用が確かにあるのだ。
 海外の絵画ではアレックス・カッツ、国内では歌川広重が一番に脳裏に浮かぶが、名作多数な雨の絵をよく自分も描くようになっ たと、そんな気を持てたのは江戸の記憶がバッサリと潔く途切れる、雨上がりの爽快な気分同様、描いた後の”元い”への誘導ではないか?
 その誘導は更なる制作へと自身を導くのだ。

2025年2月 江戸にて エンドウソウメイ

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エンドウソウメイ:プロフィール
静岡県沼津市生まれ。1985年よりイラストレーターを職業とし、木版画を中心に、「ウォーマット横浜」(複数年担当)、「アースデイ東京」などのイベントポスター。ザ・ミーターズ、アート・ネヴィル、ジャコ・パストリアス、ジャニス・ジョップリン、直近では人気急上昇中のカナダの女性ジャズシンガー、ケイティ・ジョージのジャケットなどワールドワイドな媒体にビジュアル提供及びデザイン担当。国内では、音楽専門誌「ミュージックマガジン」、「バットニュース」など音楽と真摯に向き合うマガジンに多数寄稿。ジャケットワークとしては、スーパー・バター・ドック、GOMA & The Jungle Rhythm Section、s-ken+PE’Z(配信用アイコン)、ダージリン(Dr.Kyon&佐橋佳幸)、Jagatara2020などミュージック・ジャンキーの試金石的ドープな音楽性を誇るアーティストのビジュアル及びデザインを担当。90年代からは前述に並行し、ライター、インタビュアーも兼ねるようになり、全編インタビュー書籍に、「いつの日かダブトランペッターと呼ばれるようになった/こだま和文」(企画、装丁画も担当)がある。DJとしての活動も1979年開始とキャリア中一番長く、90年代はレジェンダリーな都内クラブでレジデントとして多数プレイ。現在も「奥渋/バー希望」限定でその活動も継続中。また、ブッツキング・ディレクターとして、多くの音楽ライブ、トークショーの企画制作者の横顔も持つ。

黄昏ミュージックvol.104  ハーレム・リヴァー・ドライヴ/ハーレム・リヴァー・ドライヴ

 ライブ体験したレジェンド達が次々と天へ召される時代となった。
 ラテンからサルサへと変容する時代の風雲児エディ・パルミエリが先日鬼籍に入った。
 イノベーターを地でいったパルミエリに相応しく敢えてレア・グルーブの文脈で評価高い本作でその偉業を僅かながら辿りたいと思う。
 本作はパルミエリが率いたファンク・バンドの唯一のスタジオ録音アルバムの人気トラック。
 意外にもリリース期にはあまり評価が芳しくなかったが、その後、DJ、レアグルーヴの愛好家の間で徐々に評価を上げ今やフロアーでのダンスチューンの定番となっている。
 ファンクとアフロキューバンサウンドを統合し真正ニューヨーク・サウンドを構築したメンバーは、モンゴ・サンタマリア・バンドのビクター・ベネガス。パルミエリの弟チャーリー・パルミエリ。後にフランク・ザッパのバンドに参加するブルース・ファウラー。他ランディ・ブレッカー、バーナード・パーディと名だたる演奏家から選び抜かれた強者の名を見るだけで珠玉のグルーブが聴こえてくる。
 エディ・パルミエリの残した音楽は今日も流れ続ける(se)
(se)

黄昏ミュージックvol.103  サマー・マッドネス/クール・アンド・ザ・ギャング

 こうも猛暑が続くと、ファンクやブルースなど熱を帯びた楽曲の選曲は筆者の中でNGとなる。
 レゲエやラテン、アフリカンなどは当然多くなるが、それではあまりに芸がない。
 そこで、BPMが二桁台の緩いファンクで、フュージョン、AOR、ディスコよりのものが多くなる。
 可能ならば上音はストリングス系の音が全体を包み、エレキピアノがキラキラし、アナログシンセのロングトーンが優雅に主旋律を歌う。
 うむ……、実に曖昧な表現だ。
 ならば、この楽曲を聴いてもらう方が早い。
 インストながら74年に全米トップ30以内に入った、一般性も兼ね揃えたクール・アンド・ザ・ギャングのヒットチューン。
 前述に加え、前半のオーセンティックなジャズギターが先導し、この曲の主人公、ロナルド・ベルの手によるメロトロンの優雅な衣を纏い出すと、さらにムーグの大胆さではなく、繊細さを優先したアープのシンセサイザー(ARP2600)が自由に歌い出す。特にDJ・ジャジー・ジェフ・アンド・ザ・フレッシュ・プリンスの「サマータイム」でも印象的にサンプシングされている、F♯3からF♯7への4オクターブの上昇音は“快楽”と云っても大袈裟ではない程に脳のリビドーを満たすに値する歴史的フレーズなのだ(se)