黄昏ミュージックvol.20 忍びのテーマ(『カムイ外伝』)/水原弘
黄昏ミュージックvol.20 忍びのテーマ(『カムイ外伝』)/水原弘
当サイトの対談連載「酔談」の取材が先日あったが、その回の最高齢ゲストS女史曰く、「日本のライブシーンにどっぷりはまったのが1962年」だったそうで、「そのメッカは、“ジャズ喫茶”と云う場所だ」と名言されていた。
筆者に執って、未知の領域に関する、“ライブ黎明期”のレア証言をいただいた興味深い取材だったのだが、その時代はまだ、“舶来音楽=総称ジャズ”というざっくりした方程式が一般的で、そのジャズ喫茶なるものも、ロカビリー、ハワイアン、キューバラテン、ジャズ等が、ごった煮されたブイヤベース状態で、正確に分類されるまでには随分と時を要したはずだ。
そんな話題の中に出てきた、筆者にも聞き覚えのあるビックネームが水原弘。
リアルタイムでもブラウン管越しに見てはいたが、その歌手としての圧倒的力量を再確認したのは、彼の死後に上梓された村松友視氏の傑作評伝『黒い花びら』を読んでからだ。
さて、そんな60年代初頭に筆者が、「何を好んで聴いていたか?」といえば、幼少期故、当然、今で云う“アニソン”群中心。
国産アニメは勿論、生産が追い付かないためにアメリカより輸入された、カートゥン・ネットワーク(前身『ハンナ・バーベラ・プロダクション』)ものには随分楽しませてもらった。
舶来アニメにも純国産のテーマソングを付けるのがこの時期の通例で、これがまた中々の力作揃い。
思い出すままにざっと上げると、当時のトップアイドル、フォーリーブスにアニソンを唄わせた大胆企画、『電子鳥人Uバード』。東京演芸界のボーイズの筆頭、灘康次とモダンカンカンの定着した浪速節フレイバーを逆手に取ったポップス仕立ての、『にげろやにげろ大レース』。声優による主題歌歌手兼任のパイオニア的傑作、小原乃梨子(初代:野比のび太)の、『ドラドラ子猫とチャカチャカ娘』等がその楽しい絵柄と共に鮮明に脳裏に蘇る。
さて、ここからが本題。
実はフォーリーブス以上に大胆なアニソン企画があった。しかもこのコーナーのテーマ“黄昏”純度100%の代物だ。
1967年の『君こそわが命』のビックヒットで“奇跡のカンバック”と称された、2年後に放映された『カムイ外伝』のエンディングテーマを唄った、前述、水原弘の『忍びのテーマ』がそれだ。
水原弘は、当時の歌謡界の重鎮としては相当にフットワークが軽い人物で、他にもノベルティーソング的変化球『へんな女』等というなんとも可笑しな楽曲も衒いもなく手がけている。
まあ、無類の酒豪であり夜の帝王の名を欲しいままにしていた漢。そのための高額な維持費を稼ぐために、あまり仕事を選ばなかったのかもしれないが……。
“忍者”をテーマにした本作は、当然、黄昏せまる赤い夕暮れがよく似合う哀愁漂う楽曲となっており、時代物には必須の打楽器、ビブラスラップが効果的に多様される。
水原弘の歌唱に関しては、“上手い!”という実態のない言葉以外見つからない程に、タイム、ピッチ共に完璧で、ほれぼれする程にスムースな歌唱。
今や世界に誇る日本のアニソンであるが、その古典も既に高水準な作品揃いだったのだ。(se)