黄昏ミュージックvol.10 夜の翼をポケットに/s-ken & Hot Bomboms
黄昏ミュージックvol.10 夜の翼をポケットに/s-ken & Hot Bomboms
80年代の黄昏時や夜明け前に東京の街を包み込んだあの特異な空気は一体なんだったのだろうか?喧騒一色の中の一瞬の澄んで止まった空気。それは、当時流行ったサイバーパンクSFでのマトリックス空間に似たものだと筆者は認識する。
そんな、特異な空気が充満した魅惑の名曲がある。
日本初のパンクムーブメントを牽引し、80年代中盤からは“東京ソイソース”なる先鋭的イベントを立ち上げ、日本人、否、東京人独自の異種交配グルーブの実験場として時代を切り開いて行ったストリート発の音楽家、s-ken。彼がパーマネントなバンドとして未だ活動継続中なのがs-ken & Hot Bomboms。
今回、そんな彼等の88年の傑作2ndアルバム「千の眼」の最終トラック「夜の翼をポケットに」を黄昏ミュージックとした。
同曲はs-kenの秘蔵っ子であったシンガーソングライター、中山うりが2010年にカバーしているが、プロデューサーがs-kenということを鑑みれば広義な意味ではセルフカバーとも云える。こちらも女性シンガー特有の暖かく伸びやかなヴォーカルが魅力的であるが、“黄昏”というこの項でのタームだけで比較するならばオリジナルに軍配が上がる。
80年代後期、熱気と湿気と不快指数最高潮のナイトクラブで夜明けまでレコードをかけた真夏の朝方、地下から重いレコードを抱えて潜り出し大きく深呼吸をする。そんな時、脳内を廻るのが浮遊するロングトーンのシンセと5~6弦をデリケートに操る絶妙なトーンのギター。ロマンティクなサイバーラブストーリーのエンディングが如きリリックが被ってくる頃には、自身はマトリックスに潜り込み、そこに見えるバーチャルな映像と一体となり、東京独自のレゲエマナーな緩やかなグルーブに身を預け踊り出す。
〜♪光ってるよ虹色に 千の眼が街角に いい人見つけた 川をひとっ飛び 夜の翼をポケットに 吸い込まれてホタルは渦巻き 一人で追いかけて♪〜 (se)