黄昏ミュージックvol.19 My uncle/Franck Barcellini
黄昏ミュージックvol.19 My uncle/Franck Barcellini
先日、ミュージシャン、音楽プロデューサーのs-ken氏が、前職、音楽ジャーナリストをしていた1977年の在NY時代のパンクムーブメント萌芽に特化した写真展を行い、最終日のトークショーの台本書きとビジュアルオペレーターを不肖筆者が勉めさせて頂いた。
このトークショウに関しては裏方としても勿論、殆どオーディエンス同様にワクワクしながら開演を待った。なにせ、この日のスペシャルゲストは、s-ken氏旧知の細野晴臣氏なのだから。
細野氏の古い著書に『地平線の階段』という随筆があり、著者に執っての幾つか存在する音楽バイブルの一つであり、この著作のエキゾチックサウンドの項に出てくる編集者の田中唯士氏こそ、後のs-ken氏であり、当時、ランチタイムミュージックとして忘れ去られていたマーティン・デニーやスリー・サンズなどの魅惑の音色を有したモンド的イージーリスニングに開眼させられた運命の一冊。
さて、久々に音楽の本道を語る同い年の表と裏の音楽王の話は70歳を越えた今、2人の最初の接点だった前述音楽群を更に遡り、実質の洋楽原体験であった1958年の映画作品、ジャック・タチの「ぼくの伯父さん」にまで話は及び、「我が国の耳敏いリスナー達はこの辺りの音楽から聴き始め、ジャンゴ・ラインハルト経由でマヌーシュ・スウィング、果てはクレズマー、ジプシー・ブラスとその触覚を伸ばして行ったのだろうか?」などと筆者は勝手に想像し、その贅沢な時間を楽しんだ。
実際、細野氏は自身が高く評価するアニメーション、「ベルヴィル・ランデブー」を秀逸に引用したs-ken氏プロデュースの中山うり嬢の作品を、その出自も知らずに気に入っていたという。
この辺にも、近年、ルーツを越えた原体験回帰が両者の間で静かに交差しながら進行していた不思議な関係性が伺える。
上記使用のジャケットは、『ぼくの伯父さん~ジャック・タチ作品集 オリジナル・サウンドトラック』と題された4つの映画作品から抜粋したもので、50年代のパリの下町情緒溢れるピアノの旋律が愛おしい、今回の黄昏ミュージック『ぼくの伯父さん』は勿論、それ以外の楽曲も良質なアレンジが施された名作揃い。
正に、細野氏がこの日語った金言、「ロックの自縛からの開放」を実感させられる、ある種の究極の音楽領域なのだ。(se)