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黄昏ミュージックvol.64  ウェイフェイング・ストレンジャー/ジェリー・リード

黄昏ミュージックvol.64  ウェイフェイング・ストレンジャー/ジェリー・リード

 連載も回を重ねるうちに“黄昏”と云う主題から離れ、生がけの現場日記となりつつあるが、今回は正に、「黄昏ミュージック」にふさわしい、憂い深き人生の書(詩ではなく敢えてそう記す)を前面に押し出した、ゴスペル前夜のアメリカの宗教曲『ウェイフェイング・ストレンジャー』を取り上げる。
 この曲はアメリカの国民的楽曲であるため、多くのシンガー、バンドが演奏しているが(ジョニー・キャッシュ版も筆者は非常に好きだ)ギター神、チェット・アトキンスに見出され世に出た名手ジェリー・リード版を“推し”とさせてもらう。
 とにかくこの楽曲は尺以上に展開が目まぐるしい。長い美しき音色のアコースティック・ギターのゆったりとしたイントロダクションに始まり、雄雄しきヴォーカルが思い入れたっぷり憂いを詠う。やがてバンドサウンドに移行すると、リズムセクションが構築するサンバ風ジャズにハモンドオルガンが輪郭を包み込み、最終局面では、プレ・ジョージ・ベンソン奏法ともいえるギター&スキャットで余韻を深く残しフェイドアウトしてゆく。
 これが3分半の間に一切の強引さを感じさせず展開するのだから、いかに彼が天才ミュージシャンであったかを再確認させてくれる作品でもあるのだ。
 俳優としても一定の成功を収めた彼は約束の地テネシー州ナッシュヴィルで2008年9月1日に静かに息を引き取った。(se)