黄昏ミュージックvol.54 トゥーキャン・オーシャン/ジョン・ハッセル
黄昏ミュージックvol.54 トゥーキャン・オーシャン/ジョン・ハッセル
先頃、亡くなったアメリカのトランペット奏者ジョン・ハッセルほどイノベーターという称号がぴったりなミュージシャンはそうそういなかったのではないだろうか?
ジャズ、現代音楽、ワールドミュージック、アンビエントミュージック、フリーミュージック、どのジャンルにも精通しつつ且つどこにも属さない革新的音世界。特に70年代の末期に表出しだした民族音楽への大胆なアプローチは他の腰の引けた借り物のトレンドミュージックとは確実に一線を画していた。
それもそのはず、一般的に知られるようになったブライアン・イーノとの1980年のコラボ作品『第四世界の鼓動/Fourth World, Vol. 1: Possible Musics』のリリース時、プロキャリアの最初期であるテリー・ライリー『In C』のレコーディングから既に12年の歳月が流れており、氏の民族音楽への造詣が他の追従を許さないレベルに到達していても何の不思議もない。
その証拠が今回レコメンドする1977年のアルバム『バーナル・イクイノクス』の冒頭曲『トゥーキャン・オーシャン』。
静寂が包むジャングルに見たこともない七色の昆虫が羽を震わせ旋律を奏でる。時に近く時に遠く。吐息とも倍音ともつかぬ通音がいつ止むともなく鳴り続ける。
「ジョン・ハッセルのコンテンポラリー・ミュージック史における偉大さは、マイルス・デイビス、ジミ・ヘンドリックス、ジェームス・ブラウン、もしくはヴェルヴェット・アンダーグラウンドに匹敵する。」(The Wire誌)
稀代の鬼才よ永遠に。(se)