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黄昏ミュージックvol.29 とん平のヘイ・ユウ・ブルース/左とん平

黄昏ミュージックvol.29 とん平のヘイ・ユウ・ブルース/左とん平

 訳あって、ヒップホップ前夜のスポークンワードやポエトリーリーディングなどの音源を探すことになった。
 アメリカの音楽で云えば、ラスト・ポエッツやギル・スコット・ヘロンの類のことだ。
 そんな括りでで和物を探すと必ず向き合うことになる作品が、俳優、左とん平の『とん平のヘイ・ユウ・ブルース』。
 73年にリリースされたこの問題作は、プロデューサーとしてミッキー・カーティスが名を連ねているが、多分、大枠のコンセプトを氏が固め、実作業はアレンジャーの深町純の手腕によるところが大きいと思う。
 なぜかと言うと、こちらも名作プレJヒップホップであり本作のB面『東京っていい街だな』の作曲家が望月良道ではなく村岡健だからだ。
 ここでの不動のキャストはアレンジャーの深町純と作詞の郷伍郎。
 そんなことから時代に流されない珠玉のサウンドプロダクトは深町純の仕事と断言していい。
 でだ、
 この楽曲の一番の破壊力である詩を制作した郷伍郎だが、実は筆者は生前軽くすれ違っている。
 既にかなり高齢だったが、氏はクラブ界隈に頻繁に顔を出していて、筆者がレギュラーDJを勉めていた新宿のクラブ『C』にもよく来店していた。
 当時は、日本のオリジナル・プロテスト・フォークソング『フランシーヌの場合/新谷のり子』の作者としてだけの認識だったが、昭和のクリエーター特有の、得も言えぬ「俺に近づくな!」オーラに、それに関しての詳細を訊くにいたらなかった。
 後年、『とん平のヘイ・ユウ・ブルース』が氏の作品と知り、理不尽な搾取を受ける下層階級を“すりこぎ”に例えるそのセンスに改めて感銘をうけることとなった。
 〜すり減っちまって 短くなったすりこぎをだれが拾うもんか すりこぎは働けば働く程すり減るんだよ すり減ってみそをつけて死んじまうんだ おれをすり減らしている奴がいるはずだ おれをすりこぎにしちまった奴 そいつはだれだ だれだ〜
 郷伍郎、早すぎた天才リリックメーカーである。(se)