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黄昏ミュージックvol.26 センド・イン・ザ・クラウンズ/チェット・ベイカー フューチャリング ヴァン・モリスン

黄昏ミュージックvol.26 センド・イン・ザ・クラウンズ/チェット・ベイカー フューチャリング ヴァン・モリスン

 黄昏ミュージックと銘打ち数々の音源を紹介してきた訳だが、ミュージシャン自らが最晩年でギリギリのコンディションの中、生演奏するという、正に人生の黄昏時な楽曲が今回セレクトするチェット・ベイカーの『センド・イン・ザ・クラウンズ』(邦題:『悲しみのクラウン』)。
 元々、ミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』の挿入歌で、デジレ・アームフェルド役のグリニス・ジョーンズのたどたどしい歌唱で人気を博した楽曲。
 以後、この曲のカヴァーは頻繁に行われ、一部を除いて女性シンガーが唄うことが比較的多かった。
 さて、そんな数的に劣勢の男性シンガー陣だが、フランク・シナトラ、ビング・クロスビー等というビックネームが、極上なスムース感一杯に唄い上げているのもまた事実。だが、今回の音源でのゲストシンガー、ヴァン・モリスンはそんなスムース感などどこ吹く風、独特の引っ掛かりとだみ声とも云えるざらついた声紋で語るように唄う。
 憂い一杯のヴァンのその歌声が一旦止まると、演奏なのか吐息なのか判断できぬチャット・ベイカーのトランペットが主役の座をすっと奪い取る。否、奪い取るなんていう力感はないか?
 彼は只存在し呼吸しているだけなのだ。
 その呼吸が音楽に聴こえたりため息に聴こえたり自在に入れ替わって行く。
 周囲を固めるミッシェル・グライエ(p)のリリカルな響きと、演者全てを支えるリカルド・デル・フラ(b)のずっしりとしたグルーブがまた素晴らしい。
 “人生の黄昏時”なんて、少しネガティブに思える御人もいるかもしれないが、こんな黄昏ミュージックがあってもいいだろう(se)