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黄昏ミュージックvol.85  冬の地下道/佐井好子

黄昏ミュージックvol.85  冬の地下道/佐井好子

 冬本番の2月にしかかけない楽曲がある。
 その殆どが和物であり、当然、「雪」や「冬」、「氷」などの下手な季語が使われている作品群。
 今回セクションした「冬の地下道」も同様のもので、サウンドプロダクトは、この連載の82回で扱った「青い魚/金延幸子」同質のティム・ドラモンド(ベース)&ケニー・バトリー(ドラムス)のセクションを咀嚼した良作だ。
 気になる美しいハイトーンボイスを操るのは佐井好子。このアルバムの希有な幻想文学的リリックは、腎臓病による長期入院中の読書で身に付けたものだという。
 当作の素晴らしさはもとより、可能ならば、春名勇(ディレクター)、伊豫部富治(エンジニア)、大野雄二(プロデューサー、アレンジャー)制作の1stアルバム「萬花鏡」(1975年作品)を通しで聴き込んでいただきたい。
 この作品は正に当時の問題作で、幻想文学とは距離がある天才大野雄二が、和楽器まで持ち込んだ驚異の音楽性で、その溝を埋め合わせてゆく様が非常にスリリングであり、世界基準のアシッドフォークのモノリスとなっている理由もそこにある。
 更に、当作「冬の地下道」の冒頭の時代を先駆けたダブを彷彿させる深い深度の音響もまた聞きどころだ。(se)