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黄昏ミュージックvol.14 First Killing/Massive Attack(『天使の涙/O.S.T.』)

黄昏ミュージックvol.14 First Killing/Massive Attack(『天使の涙/O.S.T.』)

 90年代中後期は、優れたアジア映画が多数誕生し、我国でもそれら作品群がメディアの話題をさらった。
 中でも筆者は、「天使の涙」に代表されるウォン・カーウァイ作品に夢中になり、舞台となった重慶大厦(チョンキンマンション)を一目見ようと、香港旅行まで決行する熱の入れようだった。
 しかしその後、人生二度目のアジア熱は急激に下がり、スクリーン上も、アジアの混沌から、我国発のアニメーションの精神的カオスに興味は移行していった。
 そんな遍歴すら忘れていた昨年末、突発的にベトナム旅行の話が持ち上がった。
 ベトナム。「青いパパイヤの香り」、「シクロ」と、正にスクリーン上でしか知らない国である。
 やがて年が明け、本年2月中旬に実際に行ったベトナム/ホーチミン市は、フランス文化&アメリカ文化が自国の伝統と絶妙に溶け合った希有な文化体系を有し、特に、デザイン、アート、工芸などには見るべきものが多い街だった。
 しかし、事、音に関しては、表層の大らかな社会主義同様、町に流れる音楽はマナーすら怪しいハウスミュージック的なるものが最新であり、筆者はある種の統制を感じずにはいられなかった。(濃いめのアンダーグラウンドシーンにはクラブミュージックも実際は存在するらしい)
 そんな旅の中で一番再確認した事象は、“アジア=カオス”。これに全てが集約される。アジアは未だカオスだ。
 そんなアジアのカオスとイメージが完全合致した秀作、前述、「『天使の涙』O.S.T.」での、マッシブ・アタック「First Killing」(マッシブアタック盤ではタイトル『Karmacoma』)を、今回の黄昏ミュージックとさせてもらう。
 このドープなダブサウンドこそアジアカオスのソニック・イコンだ。(se)